写真を通じて地域を再発見 身の回り全てが題材に

写真家 藤岡亜弥さん
写真の芥川賞ともいわれる木村伊兵衛写真賞など数々の受賞歴がある呉市出身の写真家、藤岡亜弥さん。被爆地・広島をテーマに撮影・編集した代表作の写真集「川はゆく」(2017年)などで、日常の中に潜む不穏さや私たちが無意識に素通りしてしまっているものを独特の視点と感性で切り取り、高い評価を受けてきました。現在は東広島市河内町小田に住み、写真を通じて地域を再発見する活動を続けています。藤岡さんに、地域での取り組みや写真の魅力などについて聞きました。

古い写真からよみがえる記憶を
地域の歴史として残したい
河内町に移住したのは、地域おこし協力隊として2017年に赴任したのがきっかけです。最初は産品づくりなど住民の皆さんに頼まれたお手伝いをしていましたが、そのうち70、80代の方たちを対象に写真教室を始め、3年間の任期が終わった後も続けています。ほとんど初めてカメラを持つ人ばかりで、「こんな何にもないとこで、何を撮るん」って皆さんは言っていました。「遠くに行って特別なものを撮らなくてもいいから、自分の家の中や庭など身近なところにある面白いものを見つけて撮ってください」とお伝えすると、自分だけが知っているお気に入りの風景や自慢したいものを撮ってくるようになって。写真を囲んで自分のことや、自分の住む地域について話し始めるようになりました。そしてみんなが断然生き生きしてきたんですよね。地域おこしというのは、自分が住む土地に誇りを持つことからしか、始まらないんじゃないかと思いますね。

最近は「断捨離」として古い写真を処分しがちです。でも、写真があるから覚えていられることだってあるでしょう。今残しておかなければ、なかったことになるかもしれない記録しておこうと2021年に、「小田みんぞく事始め」というグループを立ち上げました。地域の人に協力してもらって古い写真を集め、それを眺めながらみんなで会話をしていると、自然と一枚一枚の写真から十人十色の記憶が引き出され、呼び覚まされていくようでした。そして今の生活の中で一番残しておきたいことや、小田の風習、忘れられかけている文化を執筆してもらって記録集を作りました。椋梨ダム(1969年完成)の建設で地区の一部が水没した当時のことも盛り込みました。
2冊目の冊子では、河内町では1961年にスクールバスが崖から転落し、幸いにも亡くなった方はいませんでしたが、中・高校生30人以上が重軽傷を負う事故がありました。その記憶をたどろうと、事故に遭った人たちのインタビューを収録した映像作品を2024年に制作しました。印象的だったのは、衝撃的な経験だったはずなのに、「これまで聞かれたことがないので、人に話したことがない」という人ばかりだったこと。よく覚えてなかったり、人によって記憶が違ったり。言葉にして残さないと、地域の大切な歴史は何もなかったこととして忘れられてしまうんだなあと思いますね。写真という「記録」を手がかりに、消えていく記憶をつなぎ止める作業を今もみんなで続けています。

浪人避けるために写真学科へ
多彩な経験や見聞が今につながっています
高校時代にラジオが大好きだったので、日本大学芸術学部放送学科を受験したものの落ちてしまいました。とにかく浪人生活を送りたくなくて、放送学科と同じ科目で受験でき、願書を受け付けていた写真学科を受け直して合格。撮り始めたのは大学進学後なんです。カメラも持ったこともないし、やるつもりもないのに写真学科に入るなんて、何を考えていたのか、今思うと信じられませんけど。写真学科に入ったからといって、そこから順調に写真家の道が開けていたわけではありません。
卒業後は会社員として働いたり、台湾で日式(日本式)のしゃぶしゃぶ店で住み込みで働いたり、欧州を一人で1年半も放浪したり。欧州の旅は撮影が目的ではなかったのですが、撮りためた旅の記録がビジュアルアーツフォトアワードの大賞をいただいて、写真集「さよならを教えて」(2004年)の出版につながりました。帰国後に台湾で学んだ中国語を生かして貿易事務の仕事を得たり、自分がこうなりたいっていう理想からはいつも大きくはずれながら進んでいますが、多くの経験が後に私の将来への足がかりとなっていきました。計算して何かを成し遂げるタイプではないんですよね。

©️Aya Fujioka

ヒロシマを捉えた代表作「川はゆく」
「見落としているもの」が浮かび上がりました
2013年から4年半ほど、広島の街をカメラを持って歩き回りました。大勢の皆さんの頭の中にはすでに「ヒロシマ」のイメージがあり、たくさんの写真家の題材になっています。私が同じようなことをしても太刀打ちできない。撮る前に考えすぎたらテーマの大きさにおじけづいて、撮れなくなってしまいます。
理屈とか思惑から外れたところに不意に現れる写真の面白さがあります。それを引き出すために、膨大なカットを撮ったんです。自分が見ていたはずなのに、見落としていたものがそこに浮かび上がってくるので、写真から学ぶことが多かったと思います。そうやって、「川はゆく」という作品につながっていきました。

日常の「小田」を作品に
家族やヒロシマも追い続けます
次にやりたいこととしては、まずは今の東広島での田舎での生活をきちんと作品にしていきたいですね。高齢化にしても後継者不足にしても日本のどこにでもある問題がここにあると思いますし、地域のみんなで作品を作り上げたい気持ちがあります。それに加えて、これまで積み重ねてきたことを深めていきたいという思いもあります。毎年8月6日には早朝から夜まで、HiroshimaTodayと題してスマホで撮影したスナップをリアルタイムで交流サイト(SNS)にアップしています。これからも見慣れたものへの違和感や不思議さをこれからも追い続けていけたらいいですね。

※プロフィール
ふじおか・あや 1972年生まれ、呉市出身。呉三津田高校から日本大学芸術学部写真学科に進学。在学中から写真を撮り始め、台湾在住や欧州を巡る旅を経て2007年から文化庁派遣海外留学生として米ニューヨークに滞在。2013年に拠点を広島市に移し、2017年からは地域おこし協力隊員として、東広島市河内町小田地区に在住。写真集「私は眠らない」(2009年)で日本写真協会新人賞。写真集と展示「川はゆく」(2017年)で伊奈信男賞、林忠彦賞、木村伊兵衛写真賞。2024年に広島文化賞。https://ayafujioka.net/
【藤岡さんの今後の活動予定】
- 3月8日から4月19日まで、広島市の姉妹都市ハノーバー市(ドイツ)で開かれる「boss | working women」というアートイベントに参加して、「女性のボス」というテーマでポートレート写真を野外展示。
- 2025年に米国ニューヨークでの作品をまとめた写真集「Life Studies」を出版予定。
文/仁科久美 写真/清水武司